相続の遺産分割協議で、実家の土地や建物を共有名義にした人はいますか?
不動産の現場を長年見てきたプロとして「共有はできるだけ避けてください」とアドバイスすることにしています。
なぜ共有にすることが問題なのでしょうか?
ここでは共有の法律的な定義から、よくあるトラブル例を見ていきましょう。
共有持分を売却したいときはどうする?といったポイントも解説しています。
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共有とは?
共有は一般的に使われている言葉ですが、法律上は民法に定義されている用語です。
複数人が所有権などを共同で保有している状態を指します。
共有には各人の持分が定められていますが、各人が共有物の全部を使用することができます。
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
共有持分・共有名義は登記されている
土地や建物が共有になっている場合、登記によってその権利が示されます。
例えば土地の登記簿謄本(登記事項証明書)をとってみると、
- 持分3分の1
山田太郎 - 持分3分の1
山田次郎 - 持分3分の1
山田三郎
という風に記載されています。
この持分割合に応じて各人の利用権が定められているのですね。
共有状態が発生する理由は、相続が圧倒的に多い
民法では所有権は単独所有が基本ですが、現実には共有となっている不動産はたくさんあります。
その理由としては、
- 夫婦でお金を出しあって家を買った
- 兄弟姉妹でお金を出しあって家を買った
- 相続により共同で相続した
といったパターンが考えられます。
この中で圧倒的に多い原因が、3.の相続。
例えば父親が亡くなって家族3人(母親・子2人)で相続するケース。
法定相続分で考えると、母親が2分の1、子が各4分の1を相続します。
現金預金であれば分割するのはカンタンですが、一つしか無い自宅の土地や建物を分割するのは難しいですよね。
したがって、
- 持分2分の1
母親 - 持分4分の1
子A - 持分4分の1
子B
というように共有名義で相続登記するケースが多いのです。
メリットよりもデメリットが大きい
さてこの共有、不動産の世界ではトラブルの原因として有名な存在です。
なぜ共有状態にあるとトラブルが増えるのでしょうか?
売るときに共有者全員の同意が必要
民法第251条 によって、共有物の変更をする場合は共有者全員の同意が必要と規定されています。
変更と言うと物理的なものをイメージしますが、売却などの法律行為も変更に入ります。
したがって先ほどの事例で考えると、土地を売却したり貸したりするときに、共有者3人が同意しないと契約できないということ。
太郎さんと次郎さんが同意していても、三郎さんが反対していると成立しません。
「共有している土地を売りたいけど、兄弟の同意が取れずにいつまで経っても売れない」
こんな事例が全国で見られるのは、この民法の規定があるからなのですね。
二次相続で問題がさらに複雑になる
相続で共有名義になったあと、さらに二次相続で問題が複雑化することも多くあります。
例えば子Aが亡くなってしまい、その持分を子Aの妻と子2人が相続したとすると、
- 持分2分の1
母親 - 持分8分の1
子Aの妻 - 持分16分の1
子Aの子C - 持分16分の1
子Aの子D - 持分4分の1
子B
と共有者が5人に増えてしまいました。
さらに母親や子Bが亡くなると、さらに複雑な状態になりますね。
共有にするメリットはない?
共有のデメリットばかりを解説してきましたが、あえて共有にするメリットというのも存在します。
- 各人で所得税の控除が受けられる
- 各人で住宅ローンを活用できる
ただこれは、共有者全員の人間関係が良好であることが前提です。
肉親でもいつ人間関係が悪化するかは分かりません。
トラブルになる前に売却するなどの対策をしておきたいですね。
共有不動産を売却するには?
共有状態にある不動産を売却するするとき、
- 自分の持分のみを売却する
- 全員で一括売却する
という二通りが考えられます。
共有持分のみを売却する
共有状態にある不動産を一括で売却するのは全員の同意が必要ですが、自分の共有持分だけを売却するのであれば特に同意は必要ありません。
単独で契約できます。
ただ共有持分のみの売却を受け付けてくれる不動産会社は少ないです。
金額面でも普通に売却するよりは低い売却価格になってしまいますね。
共有者同士の関係が悪化して修復できないというときは、専門の不動産会社へ相談してみましょう。
共有持分の買取や売却をお願いする業者について、詳しくは以下の記事で解説しています。
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共有者が全員で売却する
共有者全員の同意が取れるのであれば、普通の不動産と同様に売却ができます。
この場合第三者に売却するケースもありますし、ひとりの共有者が他の共有持分を買い取って単独所有とするケースもあります。
共有持分を放棄する
「いろいろなトラブルが面倒だから、お金にならなくても共有持分を放棄したい」
こんなことも可能です。
相続税の申告すをる前に相続放棄
もし相続税の申告前に相続分を放棄したいのなら、相続放棄の手続きをしましょう。
相続放棄の手続きは、家庭裁判所にカンタンな書類を提出するだけで済みます。
- ただし、
相続人が、相続財産の全部又は一部を処分したとき - 相続人が相続開始を知ったときから3ヶ月以内に限定承認又は放棄の手続きを取らなかったとき
- 相続人が、限定承認又は放棄をした後でも、相続財産の全部若しくは一部を隠匿したり、私的にこれを消費したり、相続財産と知ったうえでこれを財産目録に記載しなかったとき
このような状態になったら、相続放棄はできなくなります。
全ての財産を相続する(単純承認)ことになります。
相続したあとに持分放棄
相続した後に、自分の持分を放棄することもできます。
持分の売却と同様に、他の共有者の同意は必要ありません。
持分が放棄されると、自動的に他の共有者へ帰属されることになります。
ただしこの帰属した持分はみなし贈与となり、贈与税の対象となることに注意してください。
土地を分筆してから売る
共有状態に土地を分筆してから売却するケースもあります。
分筆してから売却する流れとしては、
(分筆登記)
⬇
分筆後の土地を各々の単独所有とする
(所有権移転登記)
⬇
単独所有となった土地を売却する
といったところです。
ただこの方法の問題点として、
- 分筆や所有権移転登記の費用がかかる
- 等価に土地を分筆することが難しい
ということに注意してください。
安易に共有名義にするのは避けよう
ここまで見てきたとおり、共有状態になった不動産は色々と面倒なことが発生する原因となりますね。
なるべく遺産分割協議の段階で、安易に土地や建物を共有にすること避けましょう。
他の相続財産を加味しながら、
- 代償分割
- 換価分割
とすることが望ましいです。